【デマ?】花粉が毎年、倍に増えているのは本当か?【考察】
- 1 はじめに
- 2 増えてると感じる理由①・・・場所が違う
- 3 増えてると感じる理由②・・・期間が違う
- 4 増えてると感じる理由③・・・花粉の種類
- 5 増えてると感じる理由④・・・予想
- 6 増えてると感じる理由⑤・・・思い込み、メディアの偏向
- まとめ
1 はじめに
毎年、春になって困るのが花粉。
そしていつもこの時期になって聞くのがメディアの『今年も例年より増えている』『例年の○倍になっている』という内容。あぁ今年も酷いんだな・・・と憂鬱になってしまう情報だ。
だけど最近は毎年のように増えているって情報を聞いている。むしろそれしか聞いてない気がする。いつも↓のようなニュースばっかり。
ここで疑問に思ったのが、もしメディアが言うのように毎年倍増しているとすれば、花粉の量ってめちゃくちゃ増えてない? ということ。仮に毎年2倍増えているとすると、ここ10年で2の10乗で1000倍近くなっている。本当に1000倍レベルで花粉って増えてる・・・? だとしたらヤバくない? だからこんなに花粉症酷いの?
そこで調べてみた。そうすると同じように疑問を持った方のまとめがいくつか観られた。↓
ではQ「花粉は10年前と比べて1000倍くらいになっているのか?」
結論から言うと
A「なってなかった」
1.1 データをみる
実際の花粉が増えているかを調べるには観測された花粉飛散量をみればよい。
試しに東京都が発表している花粉飛散量を見てみる*1。こちらは東京都(都内12地点平均)の飛散花粉数の経年変化を示したものである。要はここ10年間で東京都の花粉の量どうなっているの?を示したグラフである。
これだけみてもここ東京都では、ここ10年で1000倍どころか10倍すらなってないことがわかる。
でもそれって東京都以外はめっちゃ増えてるんじゃない?と、いう可能性もある。そこで環境省*2が発表している資料をみてみる。こちらは全国の各地域の花粉飛散量の平均値を月別、年度別で載せたデータだ。(グラフではなく表。ちょっと量が多い・・・)
H20~H25までのデータ→pdf*3
H26~H30までのデータ→pdf*4
これをみると確かに地域によっては、確かに数年間で数倍に増えてることもある。が、少なくとも10年間で観た場合、花粉飛散量が1000倍も2000倍も増えてる箇所は全国のどこを見ても存在していないことが読み取れる。
1.2 結論
つまり全国規模でみた場合、花粉の飛散量について以下のことがわかる。
毎年いつも○○倍増えてる → 違う
ここ10年で何千倍に増えてる → 違う
ただしデータを見てもわかる通り、前年の数倍になってる年はある。例えば上の東京都のグラフだと、H30(2018)はH29(2017)と比べ4倍くらいに増えている。この場合、確かに2018年の春は『前年と比べて4倍に! めちゃ多い!』というニュースがあるのもわかる。
1.3 問題点: なぜ毎年、増えているニュース・・・?
確かに前年より数倍に増えている年はあることがわかった。
問題はそういうニュースを毎年いつも聞いてるように感じてる事だ。
先程の東京都のグラフをみてみてもH26~H29の期間では前年より1.5倍すら増えていない。むしろH28からH29にかけては減少している。だけど減少したと聞いた覚えがない。毎年増えてるニュースを聞いてるように感じるのはなぜ・・・? 実際に酷い花粉症になったから、その被害からくる錯覚なのか・・・?
2 増えてると感じる理由①・・・場所が違う
2.1 調べる
試しに簡単に調べてみた。そんなに花粉が増えてない年でも『花粉がめっちゃ増えてる!』という記事は存在するのか?を調べてみる。曖昧な調べ方だが、とりあえずGoogle検索で以下の条件ででてくる記事を調べてみた。
検索条件
期間: 2017年1月~2017年4月
検索ワード: 花粉 倍
先程の東京都のグラフだとH28(2016)からH29(2017)にかけては花粉が減少している。そこでその期間に花粉が倍増したニュースがないか検索してみた。 検索ワードを『花粉 倍』にしてた。恣意的だが、少なくともこの年=2017年春に花粉が増えてる記事は出てこないはずだ。
検索結果
花粉倍増の記事、いっぱいあるね。
では、この記事は全部ウソなのか?
当たり前かもしれないけど、これは対象の地域がバラバラなのだ。先程『H28からH29にかけては花粉飛散量が減っている』と言ったがこれは東京都に関して。一方検索結果の記事に出てきているのは全国平均や西日本、九州など観測範囲がバラバラだ。
当たり前じゃないか。いくら東京都が減少してる年とはいえ、どこか他の地域は増えてる可能性はあるじゃん、ガバガバスギィ! m9^Д^)
・・・と思ったけど、この当たり前のことを普段から意識できてないのが原因ではないだろうか、と感じた。
2.2 考察
例えだが西日本と東日本の花粉の推移が↓の表のようだとすると
西日本 | 東日本 | |||
4年前 | 1 | 4 | ||
3年前 | 4 | 1 | → | (西日本は)前年の4倍増えた |
2年前 | 1 | 4 | → | (東日本は)前年の4倍増えた |
1年前 | 4 | 1 | → | (西日本は)前年の4倍増えた |
今年 | 1 | 4 | → | (東日本は)前年の4倍増えた |
全体でみれば増減を繰り返しるだけ。だけど地域に的を絞れば『4倍増えた』という表現が毎年できる。そしてこの主語を省いた『4倍増』という部分だけ記憶に残るのではないだろうかと思った。(なぜ主語が抜け落ちるかは後でもう少し説明)
2.3 結論
このように 地域を限定すれば花粉が倍増している箇所はどこか存在する。そしてその地域を省いた『倍増した』というインパクトある部分だけが記憶に残るため、毎年増えているような絶望を抱くのではないかと感じた。
3 増えてると感じる理由②・・・期間が違う
ただこれだけではない。場所以外にも要素がある。それが観測した期間である。
事例として2018年の春、とくダネ!でヒノキ花粉が去年の428倍と報道され話題を挙げる。これが本当なら花粉症の人にはこの世の終わりに感じてしまうニュースである。ではこれは事実なのか。
A「事実である」
正確には嘘を言ってはいない、と表現した方が正しい。これについても、内容を吟味することで分かってくることがいろいろあった。
3.1 調べる
まずこの件、よく見ると428倍となるのは八王子に限ってのことである。これは前の項目で述べた観測場所によって結果が大きく変わる事例である。
次に注意すべきが観測した期間。このとくダネ!での事例では、去年との比較対象が3月1日~4月2日の1ヶ月に限定されていた。ではヒノキの花粉が主に飛散される1月~5月の期間の合計ではどうだろうか。東京都福祉保健局が発表してるデータ*5を参照してみた。
こちらが2017年(H29)のヒノキ花粉、累積値。計測期間は1/4~5/13
こちらが2018年(H30)のヒノキ花粉、累積値。計測期間は1/4~5/13
八王子
582.4→11572.9
めっちゃ増えてた・・・
そもそも他の東京都の地域もめっちゃ増えてる。この年確かに東京都のヒノキ花粉が異常に増えていたのは事実なようだ。ただ八王子でも582.4→11572.9なので約20倍増加であり、400倍以上ではないことがわかる(それでも物凄い増加だけど)。つまり3月に限定すれば400倍以上増加だが、もう少し全体的にみれば20倍増加なことがわかった。
3.2 もう少し調べる
といっても『花粉のピークの3月に428倍なんだから、めっちゃ酷くない? 他のピークでない期間を入れて平均されるから20倍みたいに低くなるんじゃ・・・』 という可能性がある。ただ本当に3月がピークなんだろうか。そこでさらに月ごとの花粉飛散量を見てみた。
2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | |
H26 | H27 | H28 | H29 | H30 | |
1月合計 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
2月合計 | 0 | 0 | 0.3 | 0 | 0 |
3月合計 | 102.5 | 119.2 | 89.7 | 14.8 | 7787 |
4月合計 | 510.3 | 55.6 | 452.2 | 547.6 | 3777.3 |
5月合計 | 10.4 | 5.4 | 10.3 | 19.7 | 8.2 |
全期間合計 | 623.2 | 180.2 | 552.5 | 582.1 | 11573 |
上の表は八王子市の過去5年間の月別花粉飛散量(個/㎠)をまとめたものである。表自体は自分が作成したが、データ元は東京都福祉保健局*6から参照した。そしてとくダネ!で紹介された(比較された)期間に関しては赤文字で表示している。
3.3 考察
ここからわかるのは確かに2017と2018では八王子市のヒノキ花粉の量は500倍も違うことがわかる*7。
ただ一方で八王子は3月より4月の方が飛散量が多い年も存在し、特に2017は3月の飛散量が特別少ないことがわかる。それに対して偶然か2018は3月の飛散量がこれまでにないほど増えていることがわかる。そのため500倍という大きな数字になった。仮に3月、4月の合計でみれば2017は約500→2018は約10000となり、20倍程度におさまることがわかる。
つまり特別少ない期間と特別多い期間を比較した場合に500倍近くなるのであって、ピークやもう少し全体をみれば20倍程度になる、ということである。
3.4 結論
このように 期間を限定すれば花粉が倍増している箇所はどこか存在する(増えている場合でもより顕著な数字を出せる)。
4 増えてると感じる理由③・・・花粉の種類
4.1 調べる
引き続き、先程のとくダネ!事例をもう少しみてみる。実はこのジレでは比較対象がヒノキの花粉になっている。そこで花粉症の大きな要因であるスギ花粉を合計した場合、どうなるだろうか。同じ発表データ*8から引っ張ると
2017年1/3~5/14、ヒノキ+スギ花粉@八王子、飛散量合計: 3469.3
2018年1/3~5/13、ヒノキ+スギ花粉@八王子、飛散量合計: 18963.2
となり、約5.4倍の増加になる。
4.2 考察&結論
つまり ヒノキ花粉だけでみると20倍だが、ヒノキとスギを合計すると5.4倍になった。
このように花粉の対象を変化させることで数倍を数十倍と大きな数字に見せることが可能なのだ。
5 増えてると感じる理由④・・・予想
補足として増加を誇張できる要素がある。それが予想(予測)だ。言ってしまえば実際の結果がどうであれ「花粉が~倍と予想!」と謳えば、大げさに誇張できてしまう。
もちろん毎回花粉の季節の前になるとその年の飛散量を予想として発表する必要はある。ただその時、気温のように予想の最大値を求め、当然最大値なのでどうしても値が大きくなり、観てる人も多いという印象が受けやすくなる可能性が高くなる(これに関しては憶測)。
例えば↑の記事。あくまで「最大と予想」された値なのだが(しかも地域限定)、ぱっと観ただけでは花粉が9倍も!? という印象が受け取りやすい。
6 増えてると感じる理由⑤・・・思い込み、メディアの偏向
ここまでで地域、期間、花粉の対象を絞ること、そして予想最大値を使って花粉の増加を誇張できることがわかった。問題なのは結局インパクトのある『花粉が増えた』という部分しか記憶に残らないことだ。 ここからは憶測もあるが、その理由は主に2つあると考えた。
6.1 思い込み
理由の1つ目は、やっぱり人間の記憶の曖昧さや認知バイアスだと思う。前年の情報なんて正確に『どこがどういう条件下において何倍になった』よりは、単純にインパクトのある『なんか増えた』くらいしか記憶にない。あとは自分や周りの花粉症の症状が酷いと、バイアスがかかって花粉が増えている部分だけ頭に入りやすくなるのではないだろうか。
6.2 メディアの偏向
もう1つの理由はメディア。メディアがインパクト狙いで主語や条件を省略したタイトルを出す場合がある。
例えば↓の記事。
実際に記事の中身をみると花粉が11倍になるのは大分県だけである。だけどタイトルでは『最大11倍』とだけ書き、嘘にならない範囲で上手く表現している。主語が大きくなるので、流し見した人は自分の地域の物凄く花粉が増えたように錯覚する。
さらにタチが悪いの下のような記事だ。
タイトルを読むといかにも2019年の花粉が5倍になってヤバイ!って感じかする。しかし実際の中身を見てみると・・・
大手気象予報会社・ウェザーニュースの調査によると、2019年春のスギ花粉飛散量は例年に比べて「非常に多い」と予想されており、地域によっては「前年の5倍」という数字も発表されている。このつらい時期を乗り切るため、今おさえておきたい最新の花粉グッズを紹介しよう。
赤文字で示したように、あくまでスギ花粉限定、そして5倍になるのは一部の地域、しかもあくまで予想である。だけどそれらを全部隠し、より多くの人に当てはまるタイトルにしていることがわかる。
もちろんメディアが全部悪いわけではない。悪質なタイトルの記事は一部で、ちゃんとした記事もある。だけど読む人側が「今年も酷いんだろうなぁ」とバイアスをかけて流し読み、さらにその上澄みの情報だけが手軽にSNSで拡散されることにも原因がある。(このブログのタイトルも少し盛ってるしね・・・ごめんなさい)
まとめ
非常に長くなったけど、
Q「花粉は毎年何倍も増えているのか?」
という問いに足して、まとめると以下の回答になる。
A「いいえ。常に増えているわけではない。」
A「ただし、年によっては前年の1~10倍という場合もある。」
A「年によって増えたり減ったりする。」
A「なので10年間でみると、増えても1~2倍程度である。少なくとも100倍や1000倍のペースでは増えてはいない。」
そして
Q「ではなぜ毎年のように花粉が酷く倍増しているニュースを耳にするのか?」
という問いに足して、以下の要因が考えられた。
A「局所的(場所、期間、花粉の種類)な条件で比較すれば、何かしら倍増している箇所がある。」
A「そしてメディアがその条件をタイトルで省いて『今年は花粉が○倍!』という部分だけ報道。」
A「そうでなくても読者側がよく読まず、『増えている』の部分だけを目に入れる。」
A「結果、主語が大きい(・・・というか無い)情報が毎年出回り、自分周りの花粉がいつも増えているように感じる。」
大切なのはどんな情報でも誇張された部分に目を向けるだけでなく、しっかり背景の場所や期間、対象を読み解くことだと思った。
これは花粉に限らず、他のニュース、統計にも言えることかもしれない。大げさなタイトルやコメント欄だけで判断せず、データ元や条件を読んで自分で考えることが重要だと思う。
凄く大変だけどね。
*1:http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2019/01/23/21.html
*3:http://kafun.taiki.go.jp/Index/pdffiles/2013kafun-joukyou.pdf
*4:http://kafun.taiki.go.jp/Index/pdffiles/2018kafun-joukyou.pdf
*5:過去の飛散花粉数データ|東京都の花粉情報|東京都アレルギー情報navi.
*6:過去の飛散花粉数データ|東京都の花粉情報|東京都アレルギー情報navi.
*7:この表からは7787/14.8で500倍以上にもなっている。とくダネ!で428倍となっている。おそらく厳密な観測期間が違い、とくダネ!では3月に加え4/3まで含まれているため違いが出ている。